2012年6月10日日曜日

高校新学習指導要領 生物教科書比較

今年度から実施されている新学習指導要領に従って改訂された「生物」の教科書を比較してみました。比較したのは以下の4点です。

啓林館 61 啓林館 生物 302
数研出版 104 数研 生物 303
第一学習社 183 第一 生物 304
東京書籍 2 東書 生物 301


生物学の潮流が大きく分子生物学へシフトしている今なので、将来大学でその分野の学習をする高校生向けに授業をする立場から比較しました。

比較に当たっては全範囲を網羅的に比べるのではなく、従来の高校生物から変化を期待する分野に絞って具体的な項目がどの様に記述、解説されているかを見ました。

比較した項目は以下の通りです。

1 オルガネラのダイナミックな連携をいかに表現しているか
2 中学からのギャップを生み出すであろうことが明らかなメンデル遺伝の扱い
3 DNAの方向性について的確な表現をしているか
4 膜タンパク質の重要性と作動機序が的確に表現されているか
5 タンパク質の性質を決定するアミノ酸についてどの程度扱っているか
6 ニューロンにおける興奮とタンパク質の関わりが適切に表現されているか
7 生命現象を支えているシグナリングについて様々な単元で扱っているか
8 分子進化の知見を盛り込んで遺伝的浮動とびん首効果をどの様にあつかっているか
9 その他

比較したものを表にまとめました。


全体的な感想だけを書きます。

啓林館:高校生物を教養レベルで学び、大学でも生物学に直接関わらない生徒には良いと思います。中学校で学習する遺伝の内容を本文中で復習するなど、内容が定着していない生徒に配慮した作りです。また、進化の単元はとてもよくまとまっていると思います。しかし、分子生物学的内容に関しては乏しいと言わざるを得ません。

数研出版:ホントに個人的感想ですが旧課程の教科書を大急ぎで焼き直しました。何とか、間に合いました、って感じがします。アミノ酸の20種を全て示したのに疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸を区別しなかったり、静止型Kチャンネルと電圧依存型Kチャンネルを区別しているのに同じ図で示してみたり。ややちぐはぐです。

第一学習社:内容の量と深度は一番です。オルガネラの相互作用、膜タンパク質のダイナミックな動きなど、詳細を伝えようと努力していることがわかります。この内容を十分な時間をかけて授業できれば理想なのですが、一般的な高校の生物教師に与えられた時間ではとても不足かなと思います。生徒のレベルが十分高いか、教師が積極的に内容を精選して授業できるのであればこの教科書を薦めます。

東京書籍:版型を大きくして内容を盛りだくさんにしようとがんばっているのはよく判ります。でも興奮の伝達の単元で見られるような、EPSP・IPSPなどの新たな用語を持ち出すのならそれに付随する周辺の説明を充実させないと、生徒は「覚えればいいんでしょ」になっちゃうんだよね。抑制性シナプスについて扱っている教科書は他にもありますが、この説明ではなぜ興奮の伝達を押さえられるのか解りませんよ。

また、全ての教科書に共通して感じたこともあります。

1 科学者の足跡に関する記述が減っています。 内容を充実させ値段を抑えるために削ったのでしょうか?新たな境地を切り開く学者を育てるためには、過去の科学者がどんな思考過程を経たのか学ぶ事が、絶対に必要です。

2 多様な生物がそれぞれに多様な論理で進化してきたような誤解を生じさせる記述が気になります。生物学が科学として成立するためには、進化も統一した理論で説明できなければなりません。

3 内容を増やすことに二の足を踏んでいるように感じます。文科省からの指導、採算ベースに乗るかどうかの経済的問題など、紙幅を増やすことを抑制する要因は多々あるのでしょうが「うちが本気で作ったらこうなるんだよ!」って教科書見てみたいなあ。

以上 比較の結果、うちの学校ではD-1社になるのかなあああ。







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