2012年4月18日水曜日

高校生物公開授業 体液性免疫の獲得

体液性免疫が成立するまでの、基本的な流れの授業です。免疫系の細胞たちをキャラで理解してもらおうと思ってこの授業をやってみました。


マクロファージ、リンパ球T細胞、B細胞などの個別の説明は事前に済ませてあります。

抗原侵入から抗体産生細胞の形成までが細胞間と細胞内で生じるシグナル伝達で説明できることを理解してもらう目的で行いました。

ですから、免疫記憶と二次応答、さらには抗原抗体反応の特異性など、免疫の詳細についてはここではほとんど触れていません。

マクロファージがどの様に抗原を取り込むかについては、この動画がわかりやすいと思います。


また、免疫の学習をする際にはウィルスがどの様にして細胞に感染するのかも大まかに話します。その際に参考に見せている動画です。

2012年4月17日火曜日

生物基礎の授業展開 その3 細胞とエネルギー と タンパク質

僕の学校で使っているD1学習社の教科書では「細胞とエネルギー」の単元で代謝・ATP・光合成・呼吸を扱い、やや離れたところで「遺伝情報とタンパク質の合成」としてタンパク質の性質を扱っています。

でも、代謝などの生化学反応の学習とそれを触媒する酵素としてのタンパク質の学習はひとまとまりに行うべきだと考えます。(ちなみにS研・K林・T書の教科書では同じ単元で扱っています)

「細胞とエネルギー」の単元で学習すべき重要なことは、以下のようなことだと考えます。

1.生命活動は細胞内外の化学反応(生化学反応)により支えられている

2.生化学反応は個々の反応が個別・独立的に生じる事はなく、全て連鎖的反応経路(cascadeとかchain reaction pathwayがキーワードでしょう)のなかで整然と進行してゆく

3.連鎖的反応経路はその各段階に酵素やATPが作用することにより、あたかも、自発的に進行するかの様にみえる(こんなに複雑なんだよ!の提示にはこのサイトを) 

4.酵素による触媒やATPによるエネルギー供給無しに生化学反応が進行することは(現在の常温環境下で生きている生物においては)あり得ない

以上の事をきちんと押さえないで、「呼吸って反応はこうして進むものなの」「酵素ってのは反応を触媒するの そういうものなの」って教えちゃうと、『生命現象には独自の科学論理体系が存在していて、それは物理学や化学の論理的支配から逃れたものなんだ』という誤った概念を生み出しかねません。この誤認は生命に対する神秘主義や生命似非科学の侵出を許すことに繋がりかねず、とても危険だと、僕は考えます。

そこで「細胞とエネルギー」の単元では「タンパク質」の構造にも言及しながら、生命を支えている連鎖的反応経路(cascadeとかchain reaction pathway)の見事さを伝えることに重点を置きます。

その様な背景がありますので、この単元はこのプリントの流れでやろうと思っています。

まず、生物学習の基礎として必要な物理的・化学的ことがらを伝えます。でも、問題があります。
僕の学校のカリキュラムだと新入生は「生物基礎」と「物理基礎」を学習して2年時に「化学基礎」、さらには「物理」「生物」「化学」の学習へ進みます。すなわち、新入生は中学校レベルの理科知識で生化学を学習しなければならない。たぶん、他の学校でも同じ問題が生じていると思います。

当然、生物の教師が物理的・化学的背景の基礎部分を補いながら授業を進めるしかありません。先生方の努力にかかっています。がんばりましょう。

では、プリントにそって展開の要点を見ていきましょう。

1.生化学反応の具体例を生徒に質問してどの程度の具体的な事例が出るでしょう?消化・呼吸・光合成くらいは思い当たるかも知れません。教科書で扱われているこれらも重要ですが、僕的にはDNA・RNA・タンパク質・多糖などのポリマーと、ヌクレオチド・アミノ酸・単糖などのモノマーとの双方向的変換が生命現象の根幹にあると感じています。こんな動画を見せて、「これも全て生化学反応なんだよ」といいます。(最新版はこちら。ただしやや長めです

2.エネルギーは「仕事の貯金」です。化学反応にはそのエネルギーが放出されるような(貯金をおろすような)反応や吸収されるような(貯金するような)反応があります。細胞内では放出されたエネルギーはどうなるのでしょう?エネルギーを吸収しなければ進行しない反応はどうやってすすめるのでしょう?

3.省略

4.5.同化はその反応全体を見たとき吸エネルギー反応になっています。異化はその反応全体を見たとき発エネルギー反応になっています。

同化は吸エネルギー反応。仕事の貯金をする反応。どんどん進むと貯金が増える。増えた貯金が同化産物という物質に含まれる化学エネルギーです

異化は発エネルギー反応。仕事の貯金をおろす反応。おろした貯金は現金になるよ。生化学反応における現金はATPだよ。だから、異化が進むとATPは増えるよ。でも、貯金は減るよね。

逆の反応系を一つの体系として理解させましょう。

6.7.酵素については立体構造が重要であることを考えさせましょう。こちらを参考にしてください
アミノ酸についてどのレベルまで教えるかは生徒の習熟度によると思います。十分なん受容力を持ったクラスではアミノ酸の分子構造・側鎖の特徴がアミノ酸の個別の特徴に反映されること・疎水性のアミノ酸や親水性のアミノ酸があることまで教えます。
タンパク質については大まかに機能タンパク質と構造タンパク質の違いを伝えます。

8.ATPについての基本はプリントの通りです。
ATPの分子構造はこの動画が良いと思います。

9.10.11.光合成と呼吸の化学反応を細かく憶える授業はやりません。どちらの反応も内容に立ち入ったプリントを配布しますが、その目的は、「かくも複雑なる反応の粛々と進みたるは如何に」を考えさせることです。光合成も呼吸もとんでもなく複雑な連鎖的反応経路を形成しています。それが間違いなく進む様に準備された装置が「葉緑体」であり「ミトコンドリア」です。
授業では、「とても見事なピタゴラ装置なんだ。とんでもなく精巧に出来たルーブ・ゴールドバーグ・マシンなんだ」の話をして、次の動画を見せます。

12.原核生物から真核生物への進化とあわせて学習します。

では、次は「遺伝現象と遺伝子」の単元に進みます。

2012年4月13日金曜日

生物基礎の授業展開 その2 生物の多様性と共通性

僕の使っている教科書では「生物の多様性と共通性」となっているのですが、「多様性」もあるけど「共通性」もあるんだよ、と、二項対立的に伝えることは、生物の本質を外れた授業であると考えます。

自然科学に限らず本質的なものはシンプルです。生物学の入り口である「生物基礎」の授業でも生物の「共通性」をシンプルに伝え、その共通な根本原理がどの様に発現するかによって様々な「多様性」を生じていることを伝えるよう、力を注ぐべきでしょう。

生物に共通な根本原理として僕が生徒に伝える事はこれです。
これは前回紹介したプリントの一部です。
具体的な授業を展開する上で、いつもこのことを頭の片隅において授業をしています。

今回の単元「生物の多様性と共通性」でもこの姿勢は変わりません。

教科書には生物の特徴として
細胞
代謝
生殖
恒常性
刺激の受容と反応
進化
などがあげられていますが、なんの説明も無しにこれらの項目を列挙すれば、たぶん生徒はこれらが個別の理論で成り立っている無関係な事象であると理解します。それは生物学的理解ではありません。


そこで、この単元はこのプリントの流れですすめる事にします。

この中には「生物基礎」の内容から逸脱したものも含まれています。なあに、かまうもんか。だって、こうしないと、来年度「生物」を選択する生徒に二度手間になっちゃうんだもん。

指導の上で特に注意することは次の点です。

1.生命の誕生には深海熱水鉱床の動画等を見せて、生命が穏やかな環境で生まれたのではなく、高温高圧下の(原生物からすると)苛烈な環境で生じたことを伝えたいです。そうしないと、常温で働く酵素の本来の意味が理解出来なくなります。NHKの番組サイエンスZEROがいい教材になります。

2.地球上の多様な生物に関連性があることを教えるには分類に触れざるをえません。5界説は分類の基準も含めて教えます。それぞれの界に分類される細胞の観察もやります。

3.生物の共通性は先ほど述べたとおり、根本原理をシンプルに伝えます。

4.省略

5.細胞の集団が多細胞生物ではない。細胞間のシグナリングが細胞集団の生存可能な状況を創り出す様なフィードバックを連綿と繰り返しながら、連鎖反応的生化学反応が細胞間で間違いなく進行している状況が多細胞生物であることを伝える様努力します。
大事なことは、細胞内・外・間シグナル伝達です。この動画を見せて考えさせます。



6.細胞小器官は具体的な動きや働きを動画で見せます。特に重要なのは細胞膜です。細胞膜については、こちらを参考に。

7.膜構造物であるかそうでないかは、代謝の学習時にとても重要になります。しっかり確認させます。

8.教科書では発展的に扱っていますが、細胞形態維持・染色体分離・細胞内輸送等を教えるときにとても重要になります。

9と10は「生物基礎」で扱いませんが来年度も見越して教えます。

では、次は「細胞とエネルギー」の単元です。

生物基礎の授業展開 その1

今年度から高等学校の新学習指導要領前倒実施で始まる「生物基礎」の授業展開案について、書きましょう。

まず、今年度の教科「生物基礎」を巡る問題点を整理しておきましょう。
1.旧学習指導要領の「生物Ⅰ」「生物Ⅱ」の内容配列と大きく異なっている
2.今年度はまだ教科書が準備されていない「生物」への繋がりが見えない
3.「生物基礎」がセンター試験で利用可能な教科としての地位を得るのかどうか不透明

こんな問題点があるため現場では(少なくとも僕のなかでは)次の様な戸惑いが生じています。
1.どうやって教えよう? 内容は? 流れは? 深さは?
2.2年になって「生物」選択する者としない者では、内容を変えた方がいいのかな?
3.センター試験で「生物基礎」が「つかえない奴」になったときどうしよう・・・

悩んでいるばかりではしょうがないので、実際もう授業始まってるし、えいやあっで、今年はこの方針で授業をするぞって事を決めました。

まず、授業の最初に「生物基礎」に限らず、現代の生物学がどの様にして生命現象を理解しようとしているのかを示すことにしました。そのプリントがこれです。

このなかで、個別の生命現象を個別に憶えてしまおうとする「博物学的生物学」への訣別を明確に伝えます。
生命現象も自然科学の法則に縛られた、化学的・物理学的・数学的諸問題の一部であることを伝えます。
これは、生徒が理解出来ようが出来まいが伝えます。それは、生物を科学の対象として捕らえるかそうではないかという、生徒達の科学的な見方・考え方に関わり、教師から発信しなければならない重要なメッセージであると考えるからです。

では、次回は「生物の多様性と共通性」の単元をどう展開するかについてお伝えしましょう。

ちなみに、僕の学校で使っている「生物基礎」の教科書はD1学習社の「高等学校生物基礎」です。