2012年7月16日月曜日

生物基礎の授業展開 その4 遺伝子がDNAであるということ

新学習指導要領における生物基礎は「遺伝子の本体はDNAである」ってことからスタートしていて、基礎無し「生物」を学習しない生徒は「どうしてそういうことになったの?」って所は全然勉強しないで大学に行きます。

物理・化学を受験科目に選んで大学の工学部へ進学する生徒のほとんどが、この状態になるんじゃないかと思います。それは、まずいです。

だって、生物学と工学の連携が重要である今の時代に、遺伝子本体がDNAであることを科学者たちがどの様なアプローチで解明したのかを知らずにいて、新たな遺伝子工学技術の発想が湧いてくるとは思えないですよ。

ですから、この単元でも指導要領の内容大幅逸脱で授業をします。

単元の目標をまとめたプリントはPDFでダウンロードできます。

項目ごとに解説します。

「遺伝子とその働き」の単元を3分割で学習します。
その1 遺伝子がDNAであるということ(今回の単元です)
その2 セントラルドグマ
その3 ゲノム解析と遺伝子工学

その1で学ぶ事は、プリントにあるとおりです。


Ⅰ 遺伝子の本体はDNAと呼ばれる細く長い分子である
Ⅱ その中に生命をコントロールする情報が入っている
Ⅲ 体細胞分裂とはその情報を複製して二つの全く同じ遺伝子を持った細胞を作ることである

これらの学習後に到達しているべき目標として設定する項目がその後の1~11です。

1.メンデルの業績については中学校の学習で学んでいますがもう一度確認します。僕の授業では、メンデルの研究が大航海時代の終焉期において、非ヨーロッパ地域から移入された生物種と在来ヨーロッパ種との交配を目論む農業生産者たちからの熱い期待を背負って成されたものであることを強調します。そうしないと、メンデルはただの園芸オタクで時代の先を行きすぎたマッドサイエンティストというイメージだけが植え付けられておしまいになります。
これでは19世紀後半に存在した生命化学発展への萌芽が理解できず、当然20世紀初頭に起こったメンデルの再発見に端を発する爆発的遺伝学の進歩と、その暴走の結末であるといえる人間優生学を背景としたナチのホロコーストがパラレルに存在している歴史的意味がわかりません

2.染色体と遺伝子の関係を理解して欲しいと考えてこの目標を設定します。

3.新学習指導要領では完全にすっ飛ばされている部分です。性染色体にはじめて注目したネッティー女史や組み換え価の概念を一夜にして組み上げたと言われるステュータバントなど扱いたい科学者は他にもいますが、エッセンシャルとしてプリントの科学者に絞りました。

4.ヌクレオチドの構造をその方向性も含めて学習させます。炭水化物の基本構造と「デオキシ」であるがゆえの安定性を伝えます。

5.シャルガフの不運さについては彼の著書の抜き刷りを読ませます。著書「ヘラクレイトスの火」のなかでワトソン・クリックの印象を述べている部分は生徒たちも興味を持って読むと思います。どこを読ませるべきかはこちらを参考にしてください。

6.7.8. 省略

9.遺伝情報が確実に複製されるにはどうであるべきかを考えさせます。

10.かつての高校生物は細胞周期のM期における染色体変化の些末的な学習にあまりにも力を注ぎすぎていました。その結果「おぼえりゃいいんでしょっ ヾ(`д´゛)ノ 」て気持ちに追い込んでいたんじゃないかって反省してます。細胞周期の持つ意味を考えさせましょう。

11.レベルの高い生徒たちだったら、「どうして染色体ってそんなにきれいな構造になるの?」って質問してきますよね。ヒストン、コヒーシン、コンデンシン、セパラーゼ、シュゴシン等のタンパク質の働きの概略を話して、生命は連鎖的化学反応系であることを認識させる機会にできるかなって思います。

染色体の形成の参考に、この動画がおすすめです。


コヒーシンとセパラーゼの理解にはこの動画が役に立つと思います。(高校生には誤解を与えそうな部分もありますが)